ニコラス・ローグ『赤い影』をみた。ふつうにTSUTAYAでレンタルできる。
以下、ネタバレにならないよう、注意して書きます。
この映画の原題は”Don’t Look Now”だが、邦題『赤い影』としているのは目をひくためなのだろう。確かにワンポイントの赤がテーマで、わけがわからないまま最後まで見てしまう。ラストシーンになって、ああこういうことだったのかと理解するけれども、理解できたときはもう遅い。そんな、もはや取り戻せない感覚があとに残る映画だったように思う。
主人公のジョン・バクスター(ドナルド・サザーランド)が修道院修復の仕事をしているという設定でヴェネツィアに妻ローラ(ジュリー・クリスティ)とやってくるという設定になっていた。
たしかに、ヴェネツィアのシンボルがちらちらと見える。たとえばこの左にみえるのは、いわずとしれたドゥカーレ宮殿だよね。
建築史の授業で初めて知った建築と映画で再会すると、また新しい発想ができるのも映画をみる楽しみだと思う。記憶術としてイメージがより強化される。
話はかわるが、調べてみると、この映画、セックスシーンが有名らしい。
たしかに見ていて、これはいいな、こういうセックスをしたいと思った(いや、今までのセックスを否定するわけじゃないけど)。撮影だけれど本当にヤッているとも言われることもあるらしい(ドナルド・サザーランドは否定している)。ローグ監督のコメントでは、監督、撮影、俳優しかいなかったようだ。
ところで、わたしはこのシーン目当てでこの映画を見たのではなくて・・・。結果にすぎないが、目にしてああ、いいなあって思う。前にポストしたようにヴェネツィアの街並を見たかったということと、盲の女性がこの映画に出ているということがあったからだった。
盲の女性。予言者として出てくる、あの怪しげな女性だよね。
ふつう、盲人を演じるときには目が見えないわけだから、顔をまっすぐにして、音に反応するかのような演技をすると思うが、ここで盲の女性を演じた、Hilary Masonの演技、盲人と何度か接したわたしがみても、違和感がない。階段を上るシーンや歩くシーンはよくやっていると思う。目に乳白色のコンタクトをしていて、外見的にも目が見えないことがよくわかる。わざとそういう、外が見えにくいコンタクトをしていることもあるのだろうか?
最後のエンドロールで階段を上る彼女も盲人の動きのそれだと思う。このHilary MasonとClelia Mataniaが演じる姉妹が途中でものすごく怪しくなるよね。姉を演じたMataniaにとってはこの映画が最後のようだが、彼女が笑っている映像とか・・・ちょっと頭から離れないね。
会話シーンでは明らかに会話しているのに、字幕が出ないシーンもあって、ヴェネツィアの独特の迷路的な要素が声にも現れているのかなと思ったり。
さて、ジョンが訪れる建築のなかにパラッツォ・グリマーニがあった。ミケーレ・サンミケーリ設計、1575年に完成した建築。ファサードをみればわかるけれど、高さがあり、主要階が2つあるのが特徴といえるだろう。セルリオの『建築書』からの影響があるという。
この映画でのこの建築の撮り方がちょっと独特だった。高さを意識している撮り方、インテリアにも注意されている。それにしてもすごいねー、夜になるとこんな風に見えるのか・・・。いや、ちょっとこれはいいよ。
ラストシーンにある白い建物、これはまさに、サン・スタエ教会じゃないか。この感じは16〜17世紀かな?すごく大きなペディメントに3つの像があるのを覚えている。映像でみたのは初めて。
しかし、私の心に残ったのは、これらのような有名な建築だけではなく、なんでもなさそうなヴェネツィアの風景との対比であった。
すぐ近くにある、いわずとしれた教会のはざまにはこんなごみごみとしている空間があるらしい、お世辞にも綺麗とはいえないかもしれないが、しかしこのような街をみているとヴェネツィアを旅した気分。いつか訪問するだろう、そのときがとても楽しみだ。
2012年 8月 21日(火) 23時06分39秒
壬辰の年(閏年) 葉月 二十一日 甲寅の日
子の刻 一つ
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