1月5日。夜はひきつづき『ショア』をみている。まだ第一部。監督のクロード・ランズマンがユダヤ人の連行を目撃したポーランド人たちにインタビューをしているシーンがある。ホロコーストだけでなくときおりの雑談も入っている、ホロコーストを語るための潤滑油のように。ポーランド語だろうか、その人が語り、ランズマンの隣にいる人が通訳しているときに字幕が出ている。ランズマンもこのことを語っているようだ。目撃者がそのことを回想している表情と、言語である字幕が交互に表出されている。思い出すことと語ることが切り分けられていて、あの出来事がオーヴァーラップしている。声に重りがつけられたように遅延しているぶん、ゆっくりとホロコーストのことが近づいている。ろう者と手話通訳でいうと、ろう者が手話で語っているときに手話通訳が追いかけ再生するように、その手話を音声に通訳している。ろう者が手話で語る様子と、遅れて手話通訳の声が聞こえてくるようなシーンを思わせた。手話で語るとすぐ声が追いつこうとする、それが手話通訳の仕事であるが、だけど、ろう者が手話で語るところをしっくり見せてもいい。
朝食は食パンにバターかハチミツをのせて食べることがほとんどだが、今日はマーマレード。昨年、三菱一号館美術館で「イスラエル博物館所蔵 印象派・光の系譜」を見たあとにショップに売っていた、オクスフォードのヴィンテージ・マーマレード。瓶にナイフを入れると、つややかな面の岩石が切り出されてくる。発掘現場からオレンジピールが封印された琥珀が発見されたような。5枚切のパンにつけると、朝光を受けた琥珀色が際だちつつも、砂のように崩れていって陽気の春の土を思わせた。パソコンを開く。昨日よりもあちらこちらから連絡が入りはじめ、メールを見ている時間が多くなるのは、そこここで仕事始めを迎えているからだ。途中、いろいろと思い出しては短いメールを入れる。途中、北村陽子『戦争障害者の社会史―20世紀ドイツの経験と福祉国家』を精読しはじめる。今年の仕事のために昨年入手してあった。先行研究へのレビューが丁寧で議論の土壌が丁寧につくられているところがすばらしい。
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