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この本のすばらしいところは、幕末から明治初期における盲・聾教育を中心に一次史料をひきつつ、その系譜を明らかにしようとしているところにあります。要約するならば、幕末には中国で翻訳出版された書物から西洋の状況を学び、日本人の海外渡航によって、盲唖教育の可能性を実感するプロセスがありました。福沢諭吉ら海外から戻った日本人による著述と言説の流布によって、盲唖教育の可能性 ― 盲人や聾者(唖者)の経済的自立の可能性が言及されていくというプロセスがあり、これが明治11年の京都盲唖院、明治13年の楽善会訓盲院の開校にいたったとしています。しかし大きな動きだけでなく、ミニマムな動きとして寺小屋などにおける盲人・聾唖教育も見逃していません(「附章 わが国における特殊教育の前駆」参照)。つまり、西洋の知見によって盲唖教育がはじまったのではなく、これまでの日本においても試みがあったということです。
同書は教育史・近代日本の障害史において必読の文献ですが、以後の探索により、かならずしも正しいとはいえない箇所があります。 ― 強いて言えば、服を着こなしているうちにボタンや布を留めている糸が解れてくるようなもので、必ずしも正しいとはいえない箇所が生じています。そういう意味で、この本を見直す時期にきています。たとえば、わたしは楽善会に着目して「楽善会と仏教」というテーマで分析を行いましたが、まだまだ余地はあります。
クタクタになるまで着こなす ― 多くの人に読まれていることは逆にいえば、この本の質の高さが証されているということです。
改訂新版の目次はウェブ上にありそうで無かったので呈示しておきます。
序 東京教育大学教授 唐沢富太郎
まえがき
再刊にあたって
第一編 幕末期における欧米特殊教育に関する知識
第一章 地理書による欧米特殊教育の紹介
第一節 欧米の慈善・救済に関する情報紹介
第二節 欧米特殊教育諸学校の紹介
第三節 欧米特殊教育方法の紹介
第二章 医書による欧米特殊教育の紹介 — 合信『全体新論』を中心に —
第一節 『全体新論』の成立とその構成
第二節 『全体新論』における欧米盲・聾教育の理念と方法
第三章 遣外使節が実見した欧米の特殊教育(一) — 万延元年遣米施設の見聞 ―
第一節 遣米使節の出発
第二節 米国内での特殊教育の見聞
第三節 見聞情報の伝播
第四章 遣外使節が実見した欧米の特殊教育(二) — 文久元年遣欧使節の見聞 —
第一節 使節と「教育事情探索」の下命
第二節 ヨーロッパ諸国の特殊教育見聞
第三節 使節の帰国と見聞の伝播
第五章 遣外使節が実見した欧米の特殊教育(三) — 柴田理事官一行の見聞 —
第一節 文久第二遣欧使節と柴田理事官派遣
第二節 岡田摂蔵『航西小記』と点字紹介
第六章 幕府及び諸藩留学生による欧米特殊教育との接触
第一節 幕末期留学生の渡航状況
第二節 幕府留学生西周と中村正直の見聞
第三節 長・薩藩留学生と欧米特殊教育
附章 わが国における特殊教育の前駆 ― 庶民教育機関における障害児教育の試み —
第一節 庶民教育機関と障害児童
第二節 寺子屋における障害児童の教育方法
補遣 舶載された特殊教育関係蘭書の概要
第二編 明治初期における特殊教育の成立
第一章 明治初年における盲・聾教育の提唱
第二章 明治初年の啓蒙書にみる海外の特殊教育
第三章 近代教育制度の発足と特殊教育
第一節 「学制」と「廃人学校」
第二節 「廃人学校」と初期の盲学校計画
第四章 海外渡航者の見た欧米の特殊教育
第一節 岩倉全権大使一行と『米欧回覧実記』
第二節 仏教僧侶の渡欧
第三節 澳国博覧会報告
第五章 楽善会の成立とその思想
第一節 プロテスタントの渡来とその慈善事業
第二節 楽善会の成立
第六章 学制期における欧米特殊教育との接触
第一節 田中不二麿と欧米特殊教育の報告
第二節 文部省刊行教育雑誌による欧米特殊教育の紹介
第三節 教育書による欧米特殊教育の紹介
第四節 東京教育博物館による欧米特殊教育教具の紹介
第五節 新聞・雑誌・書籍にあらわれた特殊教育
第七章 盲・聾教育の成立
第一節 初期の萌芽的教育需要と京都待賢校瘖啞教場の成立
第二節 京都盲啞院の成立
第三節 楽善会訓盲院の発足
第八章 明治十年代における特殊教育
第一節 教育政策の後退と就学免除規定の成立
第二節 初期盲・聾教育の土着化と破綻
第三節 提唱・計画・挫折
1、盲・聾教育
2、感化教育・精神薄弱教育
結び
索引
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