夜の8時過ぎ、新宿三丁目の天丼屋にて。客は誰もいない。おじいさんが一人で切り盛りしているようだ。仕込みをしていた。
「天丼ください」というとテキパキと準備をはじめる。古びた感じ、テレビもブラウン管。テレビを見ながら、何年やっていますか?と筆談で尋ねると「52年です。昭和38年9月5日に開店、わたしは26歳のとき。いまは78歳になります。」と丁寧な答え。
思わず、「どうして長く続けられるの?」とたたみかけると。
「仕事が大好なこと」と書いてあって。そうだよね、それが一番や。わたしも建築が大好きだからこの道に入ったのであった。
そして、わたしも誰かに対して「お客さん」でありたい。良い客であるだろうか。ここでいうお客さんはたとえば、誰かの本や論文に対して、良い読者であっただろうか。あるいは、ギャラリーや博物館にいくとき、良いお客さんだったろうか(これは礼儀正しいという意味ではなくて)。時には、人に厳しいことを言ったり、突き放したこともあるけれども、果たしてそれでよかったのだろうか。これまでの行動をぼんやりと振り返って考え事をしていたら、最高に美味しい天丼がきたのだった。
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