マストの帆のようにはためく絵 ― 三瀬夏之介展

夏の薫風のままに。

平塚市美術館の日本の絵 三瀬夏之介展へ。三瀬夏之介さんのサイトもある。入口に芳名帳が置かれてあり、日本美術史・辻惟雄さんのお名前があったのをみた瞬間、入口にかけられている作品が一気に、何百年も時を過ぎた作品だと錯覚した。それは近世を中心に活躍された辻さんが、わたしと三瀬さんの作品を遠くに連れていくようだったから。

展覧会のフライヤーは完成作や目玉を掲載しそうなものなのに、この展覧会では製作中の写真を掲載していて、人の大きさとの対比や無機質な足場が爆発しているかのような絵の前にそびえている。なぜそう思ったのか自分でもわからないのだけど、あの終わりの見えない福島原発とそれを覆っている構造体と重なっているようだ(ちなみにこれは本展での写真ではなく、青森公立国際芸術センター青森で撮影されたもの)。

一体何人ぐらい訪れるのだろうとおもい、スタッフに尋ねると、一日に500人ぐらいみえるという。盛況ではなかろうか。

三瀬さんの絵には、漢文が印刷されたものを下地のように使っているところがみえる。それは朱で訓点があって、二号活字にとても良く似た鉛版活字で印刷されている。ニスのせいだろうか、テカリがあって。
断片と断片を組み合わせることによって全体が常に動いているようなそんな気持ちになりながら見ていた。卒業制作は『シナプスの恋人』という。なんというか、ピラネージが見せるローマの地図のイメージを再構成したかのような幾何学的な線が入り交じっていて、脇には観音開きのように小さな板が開かれている。この開きを支える蝶番はすでに錆びてしまっている。わざと錆をつけているのか、あるいは・・・。そしてこのときから緑青が三瀬さんのなかにあったのか、微かなグリーンが見え隠れする。

アトリエの再現ブースでは、三瀬さんがセレクションしたと思わしき本が並んであった。東北幻想というテクストが貼ってあり、東北画は可能か?という。それを意識した書籍なのであろう。美術と民俗学に関心のあるひとなら惹かれるセレクションだと思う、見逃しがあるかもしれないが、見えた分を下記に抽出しておく。
とりわけ、遠野の盆地をテーマに書かれた『小盆地宇宙と日本文化』は三瀬さんの作品に重要な書籍なのだろう、わたしも関心がある。原稿が終わったら手にしてみたい。

岡倉覚三『茶の本』があるが、木下長宏による新訳もぜひ手に取って欲しい!

作品全体には、パンチ穴による金具があって、三瀬さんの手によって生み出された絵がそれぞれマストにかけられた帆のように翻って、日本の絵の海を、イメージの海を、美術の海を、時間の海をゆっくりとわたっていくような展覧会だった。この船は作家の死後、わたしの死後もどこかを漂うに違いない。

その船に揺れながら、ふっとわたしは思う。絵はどこまで絵なのか。アトリエ再現にちょこんと置かれた中世ルネサンスと思わしきトリプティックと、マトリョーシカのように置かれた大小のオブジェなどをみながら。

部屋を去るのが惜しい展覧会だった。

【三瀬夏之介展 アトリエ再現においてテーブルの上と下に置かれていた本の一覧】

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